ゴリラネーム
緊急事態宣言が9月末で解除され、10月から若干の日常生活が戻ってきた。日曜日の公開ミサも始まる。とは言え、まだまだコロナ禍の真っ只中で、非日常の最中だ。
26年と半年ほど前にも、私たちは非日常を経験した。震災で全壊した神戸市長田区にあるたかとり教会には、次の日からすぐに救援物資を携えて全国から多くの人々が駆けつけてくれた。水やおにぎり、そして防寒具などなど。焼け跡のなかで焚火を囲み寒さを凌いだ。そして教会は震災救援の拠点となっていった。
人が集まればリーダーが必要になる。その要の役を担ってくれたのはAAの仲間たちだった。つまり、アルコール依存症の人たちだったのだ。AAとはAlcoholic Anonymousの略で、無名のアルコール依存症の仲間たち、と言えばいいのか。普段から毎日どこかに集まって、一人ひとりが語り、今日一日飲まなかったことを確かめ合う。Anonymousなので、お互いを呼び合うのはニックネームだ。社会の中でつけられた名前や肩書では決して呼び合わない。
そんな仲間たちがボランティアをまとめてくれたので、当然の如くに、たかとりのボランティア全員にニックネームがつけられ本名で呼び合うことはなかった。たかとりのボランティアはAnonymous、つまり無名のボランティアたちだったのだ。肩書きや名前はあえて語らず無名だったのだ。たかとりのボランティアたちはゴリラと言われた。なのでニックネームもゴリラネームと言われた。
社会の中で名前や肩書きではほんとうの自分が見えにくく、息苦しくて生きにくい。無名でボランティアをすることは、自分自身を取り戻し、生きることの回復でもあったのだ。無名な非日常は、人生の中で大切な時なのだ。
(シリーズ名前 その3)
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