さびずに生きる
最近公開された映画の広告が目に留まった。104歳一人暮らしの女性のドキュメンタリーだ。周りの人には笑顔を忘れず勇気と希望を与え、家周りや道端の草取りも毎日する。「さびない鍬でありたい」が彼女の信条だ。「何かしていないと人間もさびる」。なるほどそうだなと思う。人生を味わいつくす。「さびずに生きる」という言葉に新鮮味を覚えた。ただそうは言っても、からだは日に日にさびてはくる。
毎年、枝の主日には、奄美大島からソテツを送ってもらっている。しかし残念ながら害虫被害による不作で手に入らなかった。ソテツは漢字では蘇鉄と書く。大島の土は鉄分が多く含まれていて栄養分がほとんどない。いわゆる赤土で、岩石が風化して土になる時に鉄分が空気中の酸素に触れてさびて赤くなる。だがソテツはそんな土壌でもしっかりと育つ。もっと言えば、鉄で蘇る植物とでもいうことができるかな。長い進化の歴史の中でソテツは自らの生きる術を得てきた。長い歴史の中で人も、そのさびた土を生かし、あの有名な泥染め“大島紬”を生み出した。
三田市は元々有馬郡三田町だった。その有馬の名前はこの地にある有馬温泉の有間からきている。日本三古湯の一つとして有名な有馬温泉は、実に 7種類の泉質を持っている豊かな温泉だ。大きく金泉銀泉と2種類に分けられている。その中の金泉と言われている温泉は、湧きだす瞬間は無色透明だが湯に含まれる鉄分がさびて色を出す。いわばさびた湯につかるわけだが、そのさびが実に心と体を癒してくれる。金泉と名付けたのもよかった。土にも水にも、さびることを生かした知恵があった。自分のからだのさびもうまくいかせればいいな。からだはさびても、そのさびが別のものを生み出すのかも。からだはさびても、そのさびが人をいやすものになるのかも。“からだはさびてもいのちはさびず”かな。
さびないいのちにいまを生きる
復活のいのちにいまを生きる
永遠のいのちにいまを生きる
三田教会 神田裕