ゴンタな子
「小学校の時 ゴンタな子がおってなぁ」 と、ある時、母さんが話し始めた。自らが体験したように話していたのできっとそうなのだろう。そのゴンタな男の子は教室の一番後ろの席に座っていた。一番後ろは見晴らしがいい。悪戯するにはもってこいの場所だ。前に向かって消しゴムを投げても誰が投げたか分からない。
いつものように授業が始まった。教室内には先生の声だけが静かに聞こえてくる、はずだったが、突然に後ろの席から女の子の叫び声が聞こえた。みんなはビックリして後ろを振り向いた。叫び声は泣き声に変わった。見ると叫んだのはそのゴンタな男の子の前に座っていた女の子だった。するとそのゴンタな子も大きな声で叫んだ。「こいつが悪いんや!」。
教室の後ろには赤く塗られたバケツがいくつか置いてあり、非常時の消火のために水が張られている。ゴンタな男の子はそのバケツを持ち上げて、よりによって目の前の女の子の頭の上から水を浴びせたのだった。なんということをしたのか。悪戯するにも程がある。先生もびっくりして教室中がパニックになった。なんでそんなことをするのと叱ってもゴンタな男の子は「こいつが悪いからや」としか言わない。被害にあった女の子は泣き続けて話すこともできない。教室のみんなはあっけにとられ、二人は教室の外に連れ出された。
先生は女の子に、「何があったの?何か悪いことしたの?」と聞いた。しばらく黙っていたその女の子は恥ずかしそうに、「授業中におしっこが我慢できなくなってお漏らしをした」と泣きながらやっと言えた。ゴンタな子のとっさの判断に感心した。
私自身はこんなことがあった。小学校の時の5時間目の授業中、気分がとても悪くなり、突然に机の上一杯に教科書やノートが見えなくなるぐらいゲロを吐いたことがあった。先生はじめ周りの子たちは「うわぁ!」と叫んで遠ざかった。めちゃめちゃ恥ずかしかった。どうしたらいいのか動けなくなった。すると後ろにいた女の子がすぐに、「大丈夫?」と言ってバケツに水を入れ雑巾を持ってきて机の上を綺麗にしてくれた。申し訳ないと思うと同時に、すごく嬉しかった。見た目も悪いしニオイもきつい。先生も近寄ってこない。そのまま授業は続けられた。
その教科書はふやけて2倍の厚みになってしまった。情けなさも2倍に膨れ上がった。それでも、恥ずかしい思いをしたときに、孤独にならないようにすぐに行動してくれた友だちたちに感謝!!
三田教会 神田裕

