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2025年10月 1日 (水)

齢(よわい)を重ねる

「しんぷさま 重い荷物を持たれては大変 そのお荷物をお持ちいたしましょう」「えっ?とんでもないです!」「役立たずでごめんなさい」。たかとり教会に赴任したのは1991年、私が33歳の時だ。教会のご婦人たちと一日旅行に行ったときに F さんにそう言われたのだ。1905年生まれの女性で最長老だった。

震災直後にも言われた。「なにかお手伝いが出来ればいいのですが せめてこの材木を運びましょう」「いえいえ 腰を痛めてはいけないので結構です」「役立たずでごめんなさい ボランティアさんのために祈っています」。

震災前から月に一度は地区集会で聖書の分かち合いを続けてきた。西須磨集会は F さんを筆頭に高齢者も多い。仲もいい。週に一度は別の集まりもしていた。花札遊びだ。一度その賭場?へ行った。細かく書かれた手書きのルール表。いざ始まると、F さんの顔は鬼に変わった。厳しい目つきと真剣な表情が忘れられない。一方、北須磨集会の若手のお母さんたちはリーフグリーンを立ち上げた。

毎年行っていた敬老の祝いは震災時では教会として行うことは断念した。しかし F さんは言った。「私たちが企画するので敬老の祝いをしたい」。十数人の敬老対象者たちが出し物を考えた。おどけた厚化粧をして踊ってくれた。赤い半パンで歌ってくれた。三味線に長唄を披露してくれた。日本舞踊で踊ってくれた。若い人たちはみんなビックリだった。ボランティアたちへの感謝の気持ちは伝わった。カオスな教会は求心力を持った。F さんの祈りはこのことだった。

97歳の時に息子に先立たれた。その時の思いをしたためた手書きの手紙はいまも残している。

2005年5月に F さんの100歳の誕生祝いをミサの中でやった。その日を区切りに教会再建が始まった。

それから数年たって F さんは救急車で運ばれた。病院に見舞いに行った。「どうしたの?」「最近背中が丸くなってきたのが気になって 鴨居に手をかけ背中を伸ばしていたらそのまま動けなくなったのです どうも骨折したみたいで」「そうだったんですか 私にできることがあればおっしゃってね」「ふふ お肉が食べたい」。

108歳の誕生日の時に施設を訪ねた。瞼が下がって目が開かないのでテープで釣り上げていた。数百円の木製のかわいい指輪があったのでプレゼントと称して差し上げたら、左手の薬指を差し出された。初めての体験でドキドキした。

もうすぐ111歳になる僅か手前で旅立たれた。2月14日のバレンタインデーの日だった。チョコをもって旦那さんや息子さんのいる天国へ旅立たれたのだった。

F さんは戦時中、神戸で 3 度も焼夷弾で焼け出された。ここでは書き切れないが波乱万丈の人生だった。

齢(よわい)を重ねれば辛いも重ねることになる。ただそんな弱いも重ねれば丈夫になる。

一度しかない人生だ。最後の最後まで、豊かな人生を送りたいものだ。

三田教会 神田裕

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